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〈書評〉デジタル時代の自助具制作—中村 春基 (一般社団法人作業療法士協会会長)

revised: 2021 / 09 / 03

INFORMATION

『無料データをそのまま3Dプリント
作業に出会える道具カタログ/事例集』
書評:中村 春基 (一般社団法人日本作業療法士協会会長)

デジタル時代の自助具制作

林 園子,濱中直樹両氏による標記の書籍が上梓された.本の帯には,「QRコードのリンク先から3Dデータをダウンロードしてプリントするだけ」,「無料! 簡単! すぐできる!!」,「ものづくりのための3Dプリンタガイドブック第2弾!!」の文字が躍る.また,よく見るとタイトルの下に「A TOOL CATALOGUE FOR MEANINGFUL OCCUPATION」とある.本書が単にものづくりの書籍ではなく,障害のある方々の意味ある作業をいかにして支援するかを命題にしていることがうかがえる.
本書に限らず書籍は「はじめに」を読むのが楽しい.なぜなら,背景や特徴,目的等がコンパクトにまとめられているからである.ご一読をお勧めする.  
本書は3部から成り,第1部の「3Dプリンタについて」では,3Dプリンタを活用するために必要な基礎知識が記載してある.いずれも必須であり,頭から最後まで順次読んでほしい.内容としては,3Dプリンタの紹介(各部品の名称),出力に必要な道具(ニッパやスクレイパー,ソフト・アプリ等),3Dプリントの流れ,出力前にやっておくこと,フィラメントの紹介,フィラメントの交換,トラブルシューティング/メンテナンス,共有サイトでのダウンロード(モデリング,デザインのリミックス)等である.繰り返しになるが,この第1部は3Dプリンタ活用の基本的な内容であり必読である.
第2部は「暮らしの道具カタログ」で,巻末にはリストがあり,目的の道具を簡単に探索できる.各品目に,名称,QRコード,フィラメントの種類,DESCRIPTION,POINTが簡素にまとめられている.
第3部の「暮らしの道具活用事例集」では,使用場面をイメージする題名,事例紹介とニーズ,製作で考慮した点,結果,材料,Next Step,サイズが簡素にまとめられ,使用場面の写真も掲載してある.
 本書の「おわりに」で重要な視点が述べられている.「デジタル・ファブリケーションによる分散製造」,「平時の準備が有事に役立つ」,「つくる責任,つかう責任」,「自分でつくる—参加の意義と自律」,「ニューノーマルとネクストメイカー」,「“design for”の先,“design with”へ」,「〈作業〉に基づく暮らしのあり方」である.そして,最後に「本書で取り上げた様々な活動に参加することは,人にやってもらう,あるいは誰かが作ったものの対価として金銭で交換することに慣れてしまった暮らしの中で,自身を〈作業〉的に評価しながら自分でやることの意味を確認し続けることである」と締めている.まさに,「自助具」の先には生活があり,それを使う人の社会参加を願う筆者らの想いがうかがえる.
 後学のために3Dプリンタを購入し,本書を基に,実際に製品をいくつか製作してみた.まず,3Dプリンタの価格であるが,サイズや使用する材料によりさまざまな種類があるようだ.本書で紹介のものは材料費も含め,4万円ほどで揃えられる.機器の組み立て,設置も説明書を参考に容易に可能であった.第1部の記載内容に沿って作業を進めたが,データのダウンロード,設計図の作成にはインターネット環境が必要である.ベッドのレベリングは「出力前にやっておくこと」の②に記載してあるが,失敗をなくすためには重要である.あとは,3Dプリンタが自動製作するが,ベース部分が剝がれたり,途中でうまく積み上がらないものもあり,はじめは講習会等を受講し,基本的な技術を習得することも必要と感じている.また,完成までの時間も作品により違いがあり,即応性を求められる場合は,事前の対応が必要である.
最後に,私の時代は自助具といえば,原 武郎,古賀唯夫(著)『図説 自助具』(医歯薬出版,1970)がバイブルだった.デジタル化の中,本書はそれに次ぐ,新たな視点でのモノづくりの書である.臨床での活用が進み,学校養成施設,病院,施設に3Dプリンタが揃えられ,次回のカリキュラム改定においては,学校養成施設の必要備品として掲載されたらと祈念している.

「作業療法ジャーナル」vol.55 no.10(2021年9月号)(三輪書店)より転載


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